
私は万年筆が好きです。万年筆菌に侵されてからまだ日は浅いのですが、不思議な魅力を持った世界です。万年筆で書くという行為自体も、筆で書くほど面倒ではなく、他の筆記具ほどには安易でなく、ほどほどのバランスで書くという行為を楽しくさせてくれます。
それ以上に、この特別な筆記具を作る職人たちの思いが伝わるところがいい。
筆記具メーカーはまず万年筆に全力投球し、その延長線上に他の筆記具を作っているように私は思うのです。そしてその万年筆を売る売り場も文房具屋さんの中では特別な場所であって欲しいと願っています。
私たち夫婦にとって特別な万年筆と接し楽しむ場所がありました。
万年筆菌を私たちにうつしたのは間違いなく古山画伯ですが、それをより豊かな世界に導いたのは、神戸にある老舗の文房具屋さんの5階にあった万年筆売り場との出会いでした。ペンシルビルの5階の万年筆売り場は広くはないけれど、筆記具担当の店員さんは筆記具が大好きで、そのことは伝わりながらもマニアックになり過ぎない柔らかな接客が気持良い、優しい空間でした。万年筆を介して居心地の良い特別な場所でした。その万年筆売り場を私達は知って、神戸に住む私達はその場所で万年筆を購入したいと思いました。
が突然その文房具屋さんは、ペンシルビルからショッピングビルのワンフロアーの平場に移転することになりました。当然移転後も万年筆を売るスペースは特別にあると思っていたのですが、万年筆好きのル・ボナーの顧客の人たちが行ってみると、そういった特別な場所は作られておらず、落ち着いて高級筆記具を愛でる空気はないという。残念です。私は筆記具担当の店員さんとはお会いしたのだけれど、ペンシルビルの5階のような豊かな時間が過ごせなくなった場所で万年筆を買う気にはなれない。

商売は利益を出さなければ続けていけません。しかしモノを売る商売はそれぞれのお店のアイデンティティーを大事にして欲しいと思う私です。それに共感して特別なモノはその場所で買いたいと思うのではないでしょうか?。
ル・ボナーオリジナルのペンケース作りもこの文房具屋さんの5階に置きたいというのが動機の一つでした。神戸という地方都市でKOBEをキーワードに独自のモノ文化が豊かになってゆくのを望む私です。
万年筆は文化です。そのことを豊かに育て伝える筆記具専門店が神戸に誕生するといいのだけれど。
モノはそのモノ自体だけでなく、その他多くの要因が豊かさを提供してくれるのではないかと思っています。
ビルの5階の売り場には一度行ったきりでしたけれど、店員さんの魅力もさることながら雑音のない中でじっくり万年筆を選べるという心地の良い空間でした。
移転後はどんな風になっているのか気にはなっていましたけれど…
あのお店独特の佇まいは無くなってしまっているようですね。残念です。