万年筆を守るシェルのようなペンケースを作りたいと考え絞り技法を使ったペンケースを発想した。プレス機を使った機械絞りは凸と凹の木型を削ってその間に濡らした革を挟んで圧力をかけて成形する技法。この技法は一枚革だと絞りやすいが、二枚貼り合わせだと急に難しくなる。一枚仕立てだと長期に使い続けると膨らみが柔らかくなってしまうので2枚貼り合わせを絞る事に拘った。そうなるとそれが出来る職人さんは限らてくる。探し求めてそれが出来る職人さんが東京箕輪におられた。出会うまで何人かの職人さんにお願いしてみたけれど、1本挿しは何とか絞れても3本挿しだと裂けてしまう。でもその箕輪の老職人さんだけは3本挿しも見事絞って頂けた。熱を加えたプレス機でも3本は1本と違い一度の絞りでは裂ける。その職人さんは凸を3分割して、まず中央を絞り次に左右それぞれ絞り最後に全体を絞る4回のしぼりで、誰も絞れなかったこの2枚貼り合わせ3本挿しを可能にして頂いた。そして生まれたこのペンケースは万年筆好きを中心に人気を博した。上画像の使いこんだペンケースたちは皆この私の私物ですが本当に気に入って使っています。しかしその老絞り職人さんは高齢で引退する事になってしまった。そして現在この1本挿しと3本挿しの絞りのペンケースは姿を消して久しい。復活生産したいと強く願い現在その方法を模索中。
昔、日本人の熟練職人の繊細な塩梅が生み出した金属絞りの万年筆軸を知った時の感動。その金属絞りの軸の万年筆は技術が受け継がれていなくて現行品では存在していない。それは理論とノウハウは残せないでそのまま見過ごしてしまって消えてなくなった。もう復刻出来ない金属絞りの万年筆軸と同じにはこの革の絞り技術を終わりにはさせたくない。ただ金属を絞るのに比べたらタンニンなめしの2枚貼り合わせた革を絞る事の方が深くはない。その方法論を見つけ出し復刻させたいと思う。圧の加え加減、プレスの適正な温度、水分の浸みさせ具合、革の厚み等変えながら方法論見つけ出したい。
私は今年で60歳になる、会社勤めだと定年の年だ。鞄職人として考えた時の老化をこのところ強く感じている。そんな私でもまだやれる事があると思っている。その一つが消えようとする技術の方法理論とノウハウを残す事。作品作りでない製品作りをしている私は量産で作る事を念頭におきながらそう思う。
ペンケースの復活を期待しています!
楽しみにしています!