マイナスの力が背中を押してくれないと、歩みを止めてしまうのか。此の所、過去の遺産である定番品の売れ方が順調に推移していて、作り出すという事への強い欲求が薄らいでいた。経済的にも納期的にも追いつめられていた頃の方がカタチを出せた。モノを生み出すという地球上で唯一人間だけが持つプリミティブな喜びを、再び享受出来る日々の復活を望みつつ自分に甘くなってしまうジレンマをここ数年続けていた。その上、趣味と実益が合致した販促に役立つと始め全くその通りだったこのブログ「ル・ボナーの一日」も、更新回数がFacebookを始めてからめっきり減った。間違いなくFacebookよりブログの方が販促として効果的であるのに、楽に更新出来る方を優先してしまう。そんなこんなで、ボンジョルノ松本は停滞していた。そんな自分が歯痒かった。再び復活するには、自分で自分の背中に火をつけないと走れない。鞄職人としてまだまだやり残した事はいっぱいあるはずだのにもどかしい。
そんな時、昔からのお客様が銀座の「ORTAS」の小松さんにオーダーしたショルダーバッグを提げて来られた。デザインはオーソドックスなハンティング系のショルダーバッグですが、オール手縫いの一点モノの迫力は別格で、それだけでなく見れば見るほど精魂込めた職人のモノ作りへの情熱に感じいった。私が失いかけていた光を、この鞄が伝えてくれた。
私はもう昔には戻れない。しかし、七転八倒しながら続けた鞄職人としての39年の経験を糧に得た方法論を武器に、まだ輝けるはず、まだ新しいカタチを生み出せるはず。
まず手始めに、中途で挫折していたビジネスリュックの再構築。今の時代に必要とされているバッグを世に問う。スーツでも違和感無く持てる大容量のリュック&ブリーフケース。ビジネス街を歩くと、スーツのズボンの端をバンドで閉めて自転車で通勤する姿を見る事が何度かある。移動時はリュックが楽だけれど、オフィスではリュックに見えないブリーフに変身するフォーマルに持てるバッグを待ち望む声も多く聞いている。纏め作りは頼むとしても、サンプルまでは私が作り上げないとル・ボナーらしさは生まれない。
過去にこのブログで私が記した下記の文章が身に沁みる。
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この時代に生きた証を残したいと思う。
それぞれ皆持っている資質や環境が違うから、
表現するカタチはそれぞれ違う。
しかしこの時代に小さな記憶として残せたら素敵だな。
隙間少ない息が詰まりそうになる現代社会において、
個が輝きを持ってモノ作り出来る価値。
芸術作品でも工芸品でもないモノ作りという仕事においてそれが出来るなら、
私達は心から自分たちの人生に満足できるはず。
本気のルボナー作品、ファンとして、愛用者として心の底から楽しみに待ってます。