何度もこのタンナーの革の事はブログで書いたと思うけれど、このワイン色の「ムスタング」という革を触っていたらまた書きたくなった。
私が一番魅了された革は何だったろう?と考えてみると、イタリアのフラスキーニ社が作っていたクロームなめしのカーフ。この革はイタリアらしさ満開で、イタリア人が考える革に求める魅力を凝縮したような革たちだった。その魅力を最大限表現する為に多くの問題点もあえて受け入れて作られた革だった。まるで一昔前のイタリア車と同じだ。
色止め加工は革のエージングに悪影響を与えるのでしない。匂いは結果そうなったのでしかたないという感じの強烈な臭い。裁断しているとそのアンモニア臭が発散してクラクラするほど。しかしそのねっとりした質感と色合いは、このタンナー以外の革では見た事のない特別なカーフだった。
その特別は独特のなめし技法から生み出された。クローム革はクローム液に漬ける事でなめす。通常はその漬けるピット槽をなめし終えるたびに洗浄して革をなめすけれど、フラスキーニのその当時のピット槽はそのまま繰り返し使っていた。まるでウナギのタレのように継ぎ足しながら。その事で科学的には説明がつかない何かが反応して無二のクローム革が生まれていた。それに加え牛の血も混ぜていたと聞いている。日本では法律で御法度だ。そんな特殊な方法とイタリア人の革に対するアイデンティティーが、その当時のフラスキーニ社のカーフを生み出していた。
しかし時代が移り安全基準が厳しくなり、クロームの廃液の浄化装置に多額の設備費が必要になり、多く廃業した。残ったクロームなめしのタンナーは生き残る為に大量生産大量消費の革を作る道を選んだ。フラスキーニ社は今も健在だけれど、もうあの魅惑のイタリアンカーフは作っていない。というよりもうあの独特のピット槽は壊したと聞いている。だから作りたくても作れない。そんな事もあり現在ル・ボナーの使うクローム革はドイツ・ペリンガー社オンリーという状態に。その革を含めヨーロッパ皮革は9月には大幅値上げ。どうしようトホホ・・・・。
まだル・ボナーではあの当時のフラスキーニ社が作った特別なイタリアンカーフを若干持っている。その中でもこの画像の「ムスタング」のワイン色の革は特に魅力的だと感じている。何故イタリアのタンナーなのに英語の名前なのか。これもイタリア人気質が成せる所。イタリア人はあんなに素晴らしい文化を持ちながら、その価値は他国人の方が理解していて外国に憧れる。マカロニウエスタンなんていう映画作ってしまうのだから。
黒の「ムスタング」はず〜っと待ってもらっているオーダーバッグに使う予定。ワイン色の方はもう残り少ないので鞄を作るほどは残っていない。半年ほど前にこの革で財布を作った。その製品を使っているお客様が先日持って来られたけれど、本当に素晴らしい深みを伴ったエージング具合になっていた。残り少なくなったワイン色の「ムスタング」で、どんな革小物作ろうかなぁ〜。
とても興味深い革ですね、コメント解禁になって良かった~(笑)