ル・ボナーの一日
誇り高き箔押し職人
2009年10月27日
ル・ボナーに箔押し機という新兵器が加わった。
これは刻印の素押しや箔(金、銀他色々)を革に熱を加えて印字する道具です。
タンニンなめしの革は、革を濡らしてハンマーで刻印を上から叩くと印字出来るけれど、
クロームなめしの場合は熱を加えながら圧力加えないと印字出来ない。
金や銀の箔を使った刻印の場合は、どんな革でもこの箔押し機がないと印字できない。
革に印字するには刻印を作る。
前の亜鉛の刻印は3ミリ製版で安く作れる。
後ろの真鍮の刻印は亜鉛の刻印に比べて何倍も高価だ。
印字した時の違いは耐久度が数百倍違う事と、
印字した時の線のエッジが鮮明に刻印される事だそうだ。
ただ同じ刻印を長く使うより安価な亜鉛の刻印を作り直す方が効率的だし、
刻印の鮮明さは素人目には違いが良く分からないし、
多くのユーザーはその部分を気にすることはまずない。
万年筆の書き味にこだわったリスシオ1紙で作ったダイアリー用革カバーを現在作っておりますが、その時入れる3社のトリプルネームを始めてこの箔押し機で入れる事になった。
今まで外注で頼んでいた作業をボンジョルノ自身が初めてやってみました。
初めての事は何でも少しドキドキする。
何十枚か押した段階でPen and message.の刻印を逆さまに押しているのに気づいたぁ~。
数十枚の逆さの刻印はそのままで作っちゃおうかなんていうよこしまな心が少し脳裏をかすめたけれど、やはりそれはまずいと革を新しく裁断し刻印のし直し。
あぁ~革がもったいない。俺のせいだぁ~。
今までネーム入れは東京堀切の猪瀬さんに頼んでいた。
でも一個あたりのネーム入れの価格がやけに高いのだ。
「いつも市場より高いネーム入れ代を請求するから箔押し機買っちゃた」と猪瀬3代目にいやみを言うと、猪瀬3代目は頼んでいる箔押し職人の事を話してくれた。
その箔押し職人は50年以上箔押し一筋の人で、猪瀬さんは先々代からの長い付き合い。
猪瀬さんが長くメインでやっていた大手カバン会社の指定箔押し屋さんで、
その会社のカバンを作る時はその箔押し屋さんにネーム入れを頼まないといけなかった。
ただ箔押し代はその大手カバン会社が支払っていたので単価は最近まで知らなかった。
カバン業界では伝説のその大手カバン会社の先代の会長がその箔押し職人の仕事に惚れこんでいたようだ。
その後色々な会社の仕事をするようになった(株)猪瀬さんは、その箔押し屋さんのネーム入れ代金を始めて知った。猪瀬さんも高いと思った。
しかしやはり誰も気にはしないことだけれど、その箔押し職人さんの押したネームはすっきりくっきりで、箔ははげにくい。
長らく付き合い続けている大手カバン会社の仕事以外のネーム入れも、
その職人さんに頼み続けている。
「今度ボンジョルノの東京出張時にはその箔押し屋さんのところにお連れしますよ。きっと感動してもらえると思いますよ」と猪瀬3代目は言う。
私の知っている限り箔押し機は電気式でトップの画像のような形だと思っていた。
その浅草下町の箔押し職人が使う箔押し機は、なんと電気は使わず加熱するのにバーナーの火を使う形式で、その上巨大な鋳物の塊で、戦前から使い続けている蒸気機関のような形したまさに重機なのだそうだ。
その箔押し機は、使う職人の長年使い続けた経験と感によってのみ生かされる。
そこで頼んだ箔押しは剥がれにくいと定評だ。
その職人さんに聞くと箔も良し悪しがあって、それを目と手触りで取捨選択し、
その箔の手触りと印字する革の質で、押す時の温度と時間を五感によって調整するそうだ。
刻印は頼むメーカーが所有し、押す革と刻印を渡して箔押しを頼む。
この頃亜鉛の3ミリ厚製版で作った刻印でネーム入れを頼む事が多くなっている。
小ロットの品のネーム入れはそれで十分事足りる。
何度かリピートを繰り返す製品のネーム入れをその亜鉛の刻印で頼んでいた猪瀬さんは、
ある時押す革は送ったけれど、その刻印を渡すのを忘れていたので持っていくと、もう箔押しが終わっていた。
亜鉛の刻印で押すと満足な仕上がりにならないから、自費で高価な真鍮の刻印を作って押していた事がわかった。
人が評価するしないは関係なく、満足できる仕事がしたい市井の箔押し職人なのだ。
その後(株)猪瀬は刻印は高くても出来る限り真鍮の刻印でお願いするようになった。
今度の東京出張の時にはその箔押し名人と巨大でバーナーで加熱する戦前の箔押し機に会いに行きたいと思うボンジョルノです。
そしてこれからも大量のネーム入れは高いけれどその箔押し職人さんにお願いしようと思った。
そして刻印は高いけれど真鍮で作ろうと思った。
Le Bonheur (06:25) | コメント(2)
Comments
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「LeBonheur」と記されたパパスの内側はステキです。この字のデザインは秀逸ですね。
Re: orenge さん
このネームの字体とバランスは私もすごく気に入っています。商標登録しているので丸に囲まれたRを右下に入れる事も出来るのですが、バランス崩すように思えて入れられません。
ル・ボナー松本
「わっ、すげ」「ほー!」は細部に宿り、細部は、職人と言われる人たちの意地とプライドが支える。でも、ちょっとコストがかかる。使う側はそれを理解した上で、高品質にはそれに見合う対価を支払う。古今東西、この枠組みは普遍ですね。
このご時世、この枠組の維持はなかなか大変とは思いますが、本物は残ると信じるしかないですね。
見ただけ、触っただけで見分ける目利き、「粋」な人でありたいなー。
Re: H さん
本物は残す価値あるモノだけが残り、残す価値なきものは消えていきます。それは厳しい現実ですが、それはそれで仕方ないことだと思っております。
でもその残り香が愛おしく思います。隙間のようなゆとりのような。
ル・ボナー松本