ル・ボナーの一日

お世話になった「銀盛堂」閉店

2009年07月13日

銀座の伊東屋斜め右向かいにある「銀盛堂」が7月26日で店を閉じる。 老舗居並ぶ銀座中央通りで、独特のアイデンティティーを持ったカバン屋さんでした。 私たち夫婦が独立して鞄作り始めた時、最初に置いて頂いたお店です。 店が閉まる前にご挨拶したいと思っていて、この機会にお伺いした。 %E7%94%BB%E5%83%8F7%20098.jpg 背の高い鉄筋のビルが建ち並ぶ中、銀盛堂の木造二階建てのお店は、 銀座商人の意地のようなものを感じる。 事業より好きな鞄の事だけ考えてお店を続けた昭和人でした。 久々に銀盛堂さんの店内に入った。 30年前頻繁に顔を出していた頃とおなじ広さのお店だのに狭く感じるのは、 子供の頃育ったふるさとの町を久々に訪れた時、道巾が狭く感じるのに似ている。 厳しく優しく私に接してくれた下町気質のご兄弟は引退して今はお店には出ておられない。 現在70前後の年齢になるオーナーご兄弟とは会えなかったけれど、 この誇り高き銀座のカバン屋さんは、最後までお二人の個性を残していた。 今は青山にあるヘルツの鞄の原型を提案したのも銀盛堂さんだった。 私たちを含め、オリジナルな鞄作りを生業としようとする若者たちの作った稚拙な鞄も快く置いてくださった。そして御兄弟の大好きなイタリアの庶民風革鞄をイタリアに直接行って大量に買い付け在庫して、我が道を行く個性的なかばん屋として存在し続けた。 20代前半の私たちが独立した頃はネットなどなくて、独立系鞄職人として生活してゆくには、お店出す資金がなけれれば卸しかなかった。卸は小売店舗の方が価格決定権があって、面白いと思っても売れる価格でないと仕入れてもくれなかった。仕事遅い私たちは徹夜続きでカバン作り続けても生活は楽ではなかった。何度やめようかと思ったことか。 そんな時御兄弟は下町言葉で励まして下さった。 「てやんでぇー! グダグダ言ってないで死に物狂いで好きなカバン作り続けりゃいいだよ。血ヘド吐くまで作って作り続けてみろよ。骨は俺がひろってやるから。ばっきゃろうー!」 そしてある時返そうと思わなくていいから生活の足しにしなと札束を私に手渡した銀盛堂の弟さん。その時の私たちにとっては大金だった。それから何年か経った時、ハミが少しずつ生活費切り詰めて貯めたお金を私に手渡し、「銀盛堂さんの弟さんに返してきて」と。返した時弟さんは泣いて喜んでいただいた。返せた時一人前の鞄職人に一歩を踏み出せた私たちだったように思った。 その後鞄に対する方向性も違ってゆき疎遠になった。けれど銀盛堂さんは見守り続けていて下さったことを今日知った。私たちが鞄問屋を通して「アウム by 松本」というブランド名でカバンを作っていた時も、その鞄を仕入れて頂いていた事を。 趣向も方向性も違ったけれど、カバンに対する愛情を持ち続けた部分は同じだったはず。 私たちが今日まで鞄作り続けて来れたのは、見返り求めぬ愛情ある人たちに支えられて。 頑固なかばん屋「銀盛堂」の御兄弟は、そんな私たちの大事な人たちの中の二人です。 銀盛堂は7月26日で終るけれど、私たちの心の中には30年前の銀盛堂のお店の佇まいと、お二人の40歳代前半の黒ベストを着てお店で接客している姿が脳裏に刻み込まれています。 かっこ悪くても、一生懸命鞄作りしてる人を愛した銀盛堂さんでした。 本当に御苦労さまでした。そして本当にありがとうございました。 私たちはもう少しカバンを作り続けてゆきますね。

Le Bonheur (21:51) | コメント(11)

Comments

  1. つきみそう より:

    ただ何となく革で出来た鞄が好きだ、ぐらいに思っていた30代の頃、たまたま前を通りがかって一発で好きになってしまったお店、それが銀盛堂でした。
     いいものはお値段もそれなりですからいつも眺めるだけ。あるとき、店先に「バーゲン」として3万円ぐらいのダレスバッグを発見。
    手にとってながめていると「革も仕事もいいんだけどねぇ、好きだって言うお客さんがいなくて残っちゃった。もう勘定も済ませちゃってるし、損してでも売らなきゃいけないんですよ。いい鞄なんだけどねぇ。」と、まるで我が子を見るような目で語ったその人、ひょっとしたらご兄弟のどちらかなのかもしれません。少なくとも5年以上前のことと記憶しております。
     まさか、銀盛堂の名前を、それも閉店するという報せとともに見るとは・・・。
     行きます。26日までに。私にとっても思い出のお店です。
    Re: つきみそう さん
    銀盛堂のお二人と知り合っていなかったら、今こうやって鞄作っている自分たちはなかったと思います。我儘にカバン屋を銀座の一等地で続けた兄弟でした。素敵だったと思います。是非行って見てください。
                             ル・ボナー松本

  2. pretty-punchan より:

    この世の中で大切なもののひとつが浮き彫りになるいい話です。心意気。忘れたくない言葉です。今度はル・ボナーがそれを引き継いでいくのですね。
    Re: pretty-punchan さん
    間違っていようが、理不尽であろうが、カバンが大好きで独自のアイデンティティーを持ったカバン屋でした。オーナーご兄弟は古き良き時代の銀座の商人でした。
    心は私たちが引き継がしてもらいます。
                              ル・ボナー松本
    人と出会うことは、その後の自分の生き方に大きな影響力があると思います。
    岐路に立った時、勇気を持って乗り越えてこれたのも、厳しくも心ある言葉、あたたかな方々に出会えた故。
    二人で一人の私たち、相変わらず皆様にお世話掛けっぱなしですけど、優しい力をくださった方々に近づきたいと思っています。
                              ハミ

  3. 米なす より:

    このところ結構な頻度でうかがっております米なすです。
    土曜日には長時間お邪魔をしてしまいました。
    念願のプレゼント用のバッグ、まだ妻に渡すのは先になりそうです。
    またご報告いたします。
    銀盛堂さんがお店を閉じられるとのこと。
    帰省のついでに何度かうかがいましたが、
    様々な用途の様々な鞄が並べられていて
    圧倒されると同時に眺めているだけで幸せになれるお店でした。
    年々歳々・・・とは申せ、残念です。
    土曜日にうかがった折にもお話させていただきましたが、
    ル・ボナーのお二人には末永く鞄を作り続けていただきたい、
    我々のいただいた鞄達の面倒をみてやっていただきたいと、
    本当に勝手ながら思っております。
    Re: 米なす さん
    関東出身だったんですね。
    安心して下さい。あと10~20年は頑張れると思っています。面倒見させて頂きますので、安心して使ってください。
                             ル・ボナー松本

  4. ロクリンパパ より:

    いつも拝見させていただいております、万年筆馬鹿かつプジョー乗りです。銀盛堂さんのことは恥かしながら存じ上げませんでしたが、早速出かけてバッグを入手いたしました。有難うございました。
    Re:  ロクリンパパ さん
    ラテン車と万年筆好きなんて親近感を感じます。
    銀座の中央通りは気骨を持って商売する銀座商人の個人店舗が少なくなってブランドショップが多くなり寂しいなと感じております。ただメイン通りから少し外れたところには、新しい銀座の息吹感じています。
                              ル・ボナー松本

  5. ぎふたけ より:

    中部地方から何年かに1回「銀ぶら」をするときに必ず寄るのが私の趣味に合う銀盛堂さんと妻の趣味に合う「とらや」さんです。
     昨日、一人で銀ぶらして、「閉店」を知り、大変ショックでした。自分用に2つ、妻へのお土産に1つ購入いたしました。
     革ものを中心としたかばん好きの私にとって思わず長居をしてしまうお店でした。「さすが東京にはこんなすごい店もある」と思っていました。
     ご兄弟の話など、何も知りませんでした。「やっぱり」という思いです。
     日本を代表する鞄屋さんのひとつが閉店することにさびしさを覚えます。「職人を育てる鞄屋さん」がこれからも大切にされる社会になることを願っています。
     長文失礼いたしました。
    Re: ぎふたけ さん
    コメントありがとうございます。
    寂しいですが、職人さんを育てる鞄屋さんはもうないと思います。利益と思惑が優先していて、義理人情といった心の余白を埋める余裕がなくなったなぁーと業界と接していて思います。でも悲観ばかりしていてもしかたありません。作る側は色々なカタチの芽が育っていると思います。
                            ル・ボナー松本

  6. onoroco より:

    おお、銀盛堂さんは閉店したのか!
    デザインもよく、革質も良く、リーズナブルなカバンはどこで買えばよいのじャー。昨冬に、手持ちが無くて(それだけの問題では無いが、)買えなかったあのバッグはどうすれば手に入るのかァー!

  7. いばらき より:

    気が付いたのが遅くて、申し訳ないのですが、5月22日に店の前を通って、銀盛堂さんが閉店しているのでびっくりしました。30年も前から、いろいろと買いましたが、結局は銀盛堂さんの鞄は飽きがこないで愛用してきました。もう、なくなってしまったのですから、あきらめるほかはないのですが、本当に残念です。また、銀座の顔が一つ消えてしまったのですね。時代の流れですから仕方がないのかもしれないですが、消えていく店はみんな良い店ばかりなのです。それを守るのも、わたしたちの責任かもしれません。

  8. 松下正夫 より:

    どなたか銀盛堂さんで扱っていた鞄が今どこで買えるかご存知ですか
    Re: ボンジョルノ より
    銀盛堂オリジナルバッグはイタリアで作らせたと聞いています。その品は一時(株)青木で卸しをしていたと思います。青木さんに問い合わせてみると分かるかも知れませんよ。

  9. 周東秀夫 より:

    今になって閉店を知りました。銀座勤務になり、又学生に戻り千駄ヶ谷で勉強していた頃、銀盛堂で28000円で買ったカバン、40年前です。決して安くはなかったけれど、今でも使っています。その後20年くらい経ってお店に行った時そのカバンを持っていったら、そのカバン家で買って行ったねと言われ、覚えているんだと驚きました。その時、衝動にかられ、次のバッグを買ってしまいました。今でも、勿論大事に使っています。お店が無くなって大変寂しいです。

  10. 匿名 より:

    銀盛堂さんから、購入させて頂きました。バックの開閉部の留め金の修理をお願いしたいのですがどのようにしたら良いのか教えてください。長年愛用させていただいて折ります
    過去に同じ修理をおねがいしております。このバックはどうしても手放せません。どうか
    修理をして頂きたくお願い申し上げます。

  11. Le Bonheur より:

    ル・ボナー(旧名アウム)の製品であればinfo @kabanya.netまでご連絡頂ければ対応させて頂きます。他メーカー製品だとブランドが分かればそこにへ、分からない場合は町の修理屋さんに頼む事になりますね。

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