ル・ボナーの一日
青砥の名人
2006年09月09日
丁寧なコバ処理。顔料仕上げ(上)と染料仕上げ(下)。丁寧な処理をしたモノだと違いを見極めるのは素人の方では難しいと思います。
私たちのように小ロットでカバンを作る職人は独立系の職人かサンプルを専門にしている職人ぐらいで、大部分の鞄職人は多くの数をまとめて作ります。工場でなく個人の工房でも最小30個、普通100個ぐらいをまとめて作ります。
数をまとめて作る場合集中力の持続と合理的な生産システムが必要です。
特に集中力の持続というのが私には不得手で、丁寧な仕事をする量産職人の人を尊敬しています。
そんな量産職人の中の名人が東京の下町、青砥に居ます。
その名人は私より少し年上で非常に頑固な職人です。どんなによい工賃の仕事でも、自分の手を汚す仕事と思うと受けません。量産職人の場合、工賃×数が収入のため、いかに名人と言えども仕事を選り好みしていると収入はそんなに望めません。
数年前に、老舗鞄問屋のカバンで亀のようなデザインのものがありました。腕のよい職人を多く擁する老舗鞄問屋でも、この亀カバンは美しく組み上げる職人は見つからず青砥の名人に声がかかりました。
みんながねをあげたと聞くと、反骨精神の塊である青砥の名人はやる気満々。苦労はしたようですが見事美しく組み上げました。当然工賃は名人の言い値のため、その亀カバンはヨーロッパの高級ブランド並の値段になりました。
基本的に青砥の名人は、メンズのコバ磨きのカバンを作ります。
コバの処理は顔料での仕上げなのですが、その仕上げの美しさは他の追随を許しません。表面張力と熱ゴテによる仕上げはまるで漆器の塗りのようです。
30個ほどのダレスのコバ処理をする時は、集中力を高め一気に処理するそうなのですが、それが終わった後必ず熱が出て、そのあと1日寝込んでしまうそうです。
私は染料での仕上げが良いと考えていますが、青砥の名人は顔料仕上げの俺のやり方が本磨きだと言います。顔料仕上げだといくら美しくてもコバにのっかった顔料がいつかポロっと剥がれるじゃないですかと言うと、俺の魂の入った顔料磨きは絶対剥がれないと烈火のごとく怒ります。使い込まれた名人作のカバンを見ていないので、それ以上のコバ磨き論争はクワバラクワバラ。
量産職人は名人と言えども、デザインはしません。青砥の名人の作る鞄のデザインの多くは、日本らしい平凡な形の紳士鞄です。コバの美しさ、緻密なステッチの締り具合、手断ちでないと見ることの出来ない、革のパーツとパーツの連続性。そういった部分を感じ取れなければ、ただの平凡な鞄です。青砥の名人はどんなデザインの鞄であろうが、より美しく組み上げることに全力投球して、今日も鞄を作っています。
仕事をお願いすることは今のところかなわないけれど、今度東京に行く時にはお会いして刺激を感じたいと思っています。
Le Bonheur (20:21) | コメント(3)
Comments
-
kawaiさん
青砥の名人が作ったものはタニザワに時々おいてあります。それと大丸で個人名を冠しておいてある店舗があるそうです。 -
コメントありがとうございます。
明日、浅草に行く用事があるので、帰りにでも見に行こうと思います。
画像のコバ、見るからに綺麗に仕上げられてますね。
顔料仕上げで絶対に剥れないと断言するコバ仕上げの革鞄、是非見てみたいです。
その方の作られた革鞄って、どこに行けば、見られるのですか?