大変親しくしている顧客のF氏、46歳既婚のサラリーマン。決してあぶく銭があった訳ではなく、15年間思い続けてある時計を遂に購入した。それもその間、機械式時計は結婚の結納返しで買ったIWCのポートフィノのみ。車もレンタカーの方が無駄がないと考える合理主義者。しかし時計における興味と知識は深く、私はその影響を強く受けた。そのF氏が15年間思い続けて買った時計は、あの雲上ブランドの中でも筆頭格のパテックフィリップの超薄型の2針時計の自動巻の「カラトラバ」。それも正規輸入代理店のカミネでの購入。15年前は今の価格の半分ぐらいだったろう。
F氏は集めたりはしない。一点豪華主義で念入りに調べ尽くしてモノを購入する。そんなF氏が選んだ上がり時計がこの秒針すらないホワイトゴールドのカラトラバ。このチョイスに感服してしまったボンジョルノ。きっと時計に深く興味がない人が見たらスルーするだろう。しかし日本文化の究極のカタチ「侘び寂びの世界」をも表現したスイス時計だ。時計業界の最高峰ブラウンドが長きに渡り作り続ける、高級なシンプルの具現化。そして彼は選ばれしサークルへの招待状も手に入れた。
いっぱい集めたいボンジョルノはそんな清い選択は出来ません。でもそのカラトラバを見ながら思った。一時凄く時計に興味を持ってしまい買い集めた時計たちの中で、最も愛おしい時計はどれだろうと考えた。そしたらやはりすぐにルクルトのフィーチャマチックが頭に浮かんだ。防水機能は全然駄目で、自動巻オンリーなのに巻ききった時にパーワーを逃がす機構がない。その上ハーフローターがぶつかる音が不安を生む。その為久しく付けていなかった。
汗の心配をしなくて済む季節になったし、この愛しい時計を主に付けよう。パワーリザーブの針を注視しながら、満タンにならないように気をつけて。万が一壊れた時は今までのように悪戦苦闘しながら直せばいい。儚さも「侘び寂び」の世界?。
モノを愛おしく思う気持ちは千差万別。私の場合は右往左往しながらアンティークで楽しむ道を進む。壊れるのが怖くて付けないのは本末転倒だと気付いた。
時計も鞄もクルマも、人それぞれ物語りがあり素敵ですね。
手間がかかる程可愛いもんですし。