ル・ボナーの一日
神戸で16年
2009年03月26日
1992年3月28日にこの神戸の地で工房兼店舗を始めた。
もう16年経った。私のカバン職人歴の半分をこの地で過ごしていることになる。
27歳の時初めて東京多摩の聖跡桜ケ丘にお店を出して、
私が根拠のない無謀な夢を描いた事で3年ほどで閉めることとなった。
その後車工場の期間従業員をしながら、それ以外の時間はカバン作りとか、
世界に通じるバッグブランドを作ろうとした計画に企画として参加しながらそれ以外の時間も自宅でカバン作ったり、24時間フル稼働体制でカバン作りしていた。
月200個バッグを組み上げる量産仕事もしたけれど、量産する職人への敬意をその後持つ良い経験ではあったけれど、私には長期に渡って続ける事は無理だと実感した。
そんな七転八倒の日々の中で、いつかもう一度お店が持ちたいというのが私たちの夢だった。
でもお金ないからその夢実現までに7年の月日を貧乏を友に過ごした。
東京の片隅で一生過ごすであろうと思っていた私たちだったが、
兵庫の実家に戻った時見た新聞にこだわりのお店募集の記事が載っていた。
「有名建築家がデザインした建物でこだわりのお店募集中」。
神戸の沖に生まれた神戸第二の人工島・六甲アイランドのショッピング街。
ここが商圏として魅力的な場所かどうかはその時分からなかった。
ただ安藤建築のセメントの無垢の表情に魅了された。
私はここにお店出すことに決定。ハミも了承した。
でもお金は全然なかった。唯一救いは借金の残金がなかった事。
無担保無保証人の融資をめいっぱい借りて、デベロッパーに払わなければいけない保証金その他待ってもらえるお金は出来る限り待ってもらって出店にこぎつけた。
(15年ほど前の狭い工房時代の私たち)
16年前オープンした時は、現在のお店部分だけの8坪ほどだった。
そこをお店と工房に仕切って小さいけれど、7年間夢見たお店を持つことが出来た。
でもその後払わないといけないお金はいっぱいあって前途多難。
お店を出す前の7年の七転八倒の金欠時代は無駄ではなかった。
その間知り合った多くの人たちから多くの事を吸収し、
聖跡桜ケ丘時代までの手作りチックなカバンたちから脱皮し、
自分たちの創造するカタチを妥協なしに作る技術を持つカバン職人に成長していた。
その後阪神淡路大震災その他困難色々乗り越えて、
色々な野望も持ったりして、失敗を繰り返しながら16年。
「ル・ボナー」は今が一番良い感じ。
店舗と工房を仕切る米軍払下げのチェイスト(20数年前八王子で13000円で購入)より向こう側がオープンした頃のル・ボナー(当時の屋号はアウム)。
その真ん中あたりから吊られたダウンライトより後ろ部分の約4坪が工房だった。
セメント打ちっぱなしの曲線を描く壁がこの場所に決めた決定的理由。
オープン時の内装もこの壁を生かす事を第一に考えて思案した。
お金かけずに上等にと考えだした飾り棚が、工事中に使う杉の足場材を使った棚。
壁と棚のバランスが絶妙だと思っている。
10年ほど前、隣の宝飾店が閉めた時壁を取り払い現在の広さのル・ボナーになった。
二人が作業するには十分な広さの工房だけれど、作業に集中するといつもゴチャゴチャ状態のル・ボナーの工房。でも私たち二人にとってどこより居心地良い場所。
二人のル・ボナーになった時、神戸の繁華街の三宮の北野坂のお店を残しこのお店を閉めることも少し考えた。間違いなく商売的にはそうした方が良いだろう。
でも私たちの本業は作る人。この居心地良い工房でこれからもカバン作り続けていくことにした。
桜が咲き始め、新芽が淡い緑を広げる季節に、17年目のル・ボナーが始まる。
Le Bonheur (17:31) | コメント(2)
Comments
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震災の少し前でしたね。あの頃はお伺いできなかったですが、今は空き家になって久しい2階にあった別のお店に訪れるたびに、ル・ボナーさんの評判は伺っていました。おかげさまで、少しづつですが、我が家にもル・ボナーさんの作品が増え、本日も神戸生まれの猫二匹がお揃いで銀座を散歩してきました。それぞれの猫の飼い主は神戸のことをよくは知りませんが、猫の色や質感が神戸の開放的な雰囲気も伝えてくれています。続けてくださって、ありがとうございます。
追伸 次は銀座の教会へ主のお導きがありますように。心が清らかであれば教会の近くを通っただけで主の声が聞こえるはずです。
Re: お使い さん
2階にあったお店ってどこですか?まあいいか。
写真と手紙ありがとうございました。親子でネコリュックの写真可愛いですね。今度どこかでブログに登場させて頂こうと思っています。
レモン社が教会にあったとは。サンピエトロ寺院でもでべそさんが迷子になって大変だった事を思い出しました。信心深くないわが身の汚れを感じております。ア~メン。
ル・ボナー松本
今日、女房がフルールをさげて銀行のATMコーナーで並んでいたら、前に並んでいた女性(30代とのこと)がブルーのプティトートをさげていたので、思わず「あっ!」と声を出したところ、その女性も女房のフルールに気付いたとのことでした。特に会話をすることも無くお互いに笑みを交わしただけだったとのことですが、お二人が風雪をくぐりぬけて世に出した作品は、そうした光景を街で作り出しているのです。
Re: pretty-punchan さん
嬉しいお話しありがとうございます。神戸の街角でそういった出来事を何度かお客様からお聞きするのが、何よりの幸せです。形が違えども同じル・ボナーのバッグだとお客様同士理解されて笑みを交わせるところがまた嬉しい。
神戸に根を下ろせている幸せ感じます。頑張ります。
ル・ボナー松本